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最低賃金の改定にどう備える?人件費増を利益で吸収するための財務対策と賃金シミュレーション

2026/10/22

最低賃金の引上げにより、「人件費が増えて利益が残らないのでは」と不安を感じている経営者様は少なくありません。大切なのは、賃上げ額だけを確認するのではなく、人件費の増加額をカバーするために必要な粗利・売上を数字で把握することです。

なお、令和8年度の地域別最低賃金は、全国一律で10月1日に改定されるわけではありません。厚生労働省によると、都道府県ごとに異なる金額・発効日が定められ、令和8年10月1日から12月2日まで順次発効します。自社の事業所所在地に適用される最低賃金額と発効日を、早めに確認しましょう。

まず確認したい:最低賃金の改定が自社に与える影響

令和8年度は、全都道府県で時間額54円から65円の引上げが答申され、全国加重平均は前年の1,121円から1,177円となりました。ただし、実際に自社で必要となる対応額は、全国平均ではなく、所在地の最低賃金と従業員ごとの時給水準で決まります。

確認する際は、パート・アルバイトだけでなく、月給制の正社員も対象です。月給制の場合も、最低賃金の対象となる賃金を所定労働時間で割り、時間額に換算して確認します。

なお、最低賃金との比較では、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与、時間外・休日・深夜の割増賃金などは原則として算入しません。手当を含めた総支給額だけで判断すると、最低賃金を下回る見落としが起こるおそれがあります。

人件費増加額をカバーするために必要な売上・粗利の計算式

賃上げへの対応は、「時給をいくら上げるか」だけで終わらせず、年間のコスト増と必要な売上をセットで把握することが重要です。

1. 年間の賃金増加額を計算する

基本となる計算式は、次のとおりです。

年間賃金増加額=時給の引上げ額×月間所定労働時間×対象人数×対象月数

例えば、時給を56円引き上げる対象者が15人いて、1人当たりの月間所定労働時間が160時間、12か月間影響するとします。

項目数値
時給の引上げ額56円
対象人数15人
月間所定労働時間160時間
対象月数12か月
年間賃金増加額56円×15人×160時間×12か月=1,612,800円

この例では、賃金そのものだけで年間約161万円の増加です。

2. 法定福利費なども含めて実質負担を把握する

会社負担の社会保険料なども、賃金増加に連動して増える場合があります。雇用形態や加入状況によって異なるため、単純な一律計算はできませんが、資金計画では賃金増加額に一定の上乗せをして試算しておくと安心です。

仮に、賃金増加額に対して会社負担分を15%上乗せして概算する場合、上記の例では次のようになります。

実質的な人件費増加額=1,612,800円×1.15=約1,854,720円

この15%はあくまでシミュレーション用の仮置きです。実際には、社会保険の加入状況、労働保険料率、賞与の有無などを踏まえて確認しましょう。

3. 必要な粗利と売上を逆算する

人件費の増加額を利益で吸収するには、増えたコストと同額以上の粗利が必要です。

必要粗利=実質的な人件費増加額

さらに、売上で考える場合は、粗利率を使って逆算します。

必要売上増加額=実質的な人件費増加額÷粗利率

先ほどの例で、実質的な人件費増加額が約185万円、粗利率が30%の場合は、必要売上増加額は約618万円です。

項目数値
実質的な人件費増加額約1,854,720円
粗利率30%
必要売上増加額約6,182,400円

つまり、粗利率30%の会社では、年間約185万円の人件費増を吸収するために、単純計算で年間約618万円の売上増が必要になります。粗利率が低い事業ほど、必要売上は大きくなります。

売上だけに頼らない、人件費アップに負けない財務対策

粗利率を商品・取引先ごとに確認する

売上が増えていても、利益が増えるとは限りません。特に、原材料費や外注費、人件費が上昇している局面では、売上高ではなく商品別・サービス別・取引先別の粗利を確認する必要があります。

赤字または低粗利の商品・取引先が多い場合、売上拡大がかえって資金繰りを悪化させることもあります。まずは、「何を売れば人件費増を回収できるのか」を明確にしましょう。

価格改定・価格交渉の根拠を数字で準備する

人件費上昇を自社だけで抱え込まないためには、適切な価格改定や価格交渉も重要です。交渉時には、「最低賃金の改定により年間人件費がいくら増えるのか」「取引先ごとにどの程度の影響があるのか」を、根拠として整理します。

中小企業庁は、価格交渉・価格転嫁に関する支援情報や交渉用の手引きを公開しています。原価構成や増加コストを見える化しておくことは、交渉の準備としても有効です。

固定費と変動費を分けて、毎月の資金繰りに落とし込む

最低賃金の改定は、毎月発生する固定的な支出の増加につながりやすい項目です。年間試算だけでなく、月次の資金繰り表に反映しましょう。

  • 給与支払日ごとの増加額
  • 社会保険料などの会社負担増加額
  • 価格改定による回収見込みの時期
  • 設備投資や採用計画への影響
  • 売上が計画未達となった場合の資金残高

「年間では黒字でも、途中で資金が足りなくなる」という事態を防ぐには、月ごとの資金残高を確認することが欠かせません。

見落としやすい「賃金体系の歪み」もシミュレーションする

最低賃金の引上げでは、最低賃金近辺の従業員だけを引き上げると、勤続年数・技能・役職による給与差が縮小し、不公平感につながることがあります。これが、いわゆる賃金体系の歪みです。

例えば、入社1年目の時給を最低賃金に合わせて引き上げた結果、入社3年目の時給との差額が小さくなることがあります。このままでは、経験者やリーダー層の納得感が低下し、離職リスクにもつながりかねません。

賃金シミュレーションの進め方

  1. 従業員を雇用形態、職種、勤続年数、役職ごとに一覧化します。
  2. 各人の現在の時間単価を算出します。月給制は、最低賃金の対象となる月額賃金を月平均所定労働時間で割って確認します。
  3. 新しい地域別最低賃金を下回る従業員を抽出します。
  4. 最低賃金との差額だけでなく、先輩・後輩、一般社員・リーダー、社員・パートの賃金差を確認します。
  5. 必要に応じて、等級ごとの最低額や昇給幅を再設定します。
  6. 改定後の年間人件費と、必要売上・必要粗利を再計算します。

簡易シミュレーション表の例

区分現行時給改定後時給時給差確認ポイント
新入パート1,100円1,135円35円最低賃金を上回るか
勤続3年パート1,150円1,170円20円経験差が維持できるか
リーダー1,220円1,250円30円役割・責任との差が妥当か

上記は考え方の例です。重要なのは、最低賃金をクリアすることに加え、社内で説明できる賃金ルールになっているかを確認することです。

最低賃金改定後に経営者が行うべきチェックリスト

  • 自社の都道府県に適用される最低賃金額と発効日を確認する
  • 全従業員の時間額換算を行い、最低賃金を下回る人がいないか確認する
  • 通勤手当や残業代などを除いた賃金で判定しているか確認する
  • 年間の賃金増加額と法定福利費等の増加額を試算する
  • 粗利率から、必要な売上増加額を逆算する
  • 商品別・取引先別の採算を確認し、価格改定や交渉の優先順位を決める
  • 賃金体系の歪みを確認し、等級・役割に応じた賃金差を検討する
  • 月次の資金繰り表を更新し、資金不足の可能性を確認する

まとめ

最低賃金の引上げは避けられないコスト増ですが、数字を使って早めに対策すれば、利益や資金繰りへの影響を抑えやすくなります。

特に重要なのは、人件費増加額を算出し、必要な粗利・売上を逆算すること、そして最低賃金近辺だけでなく、社内全体の賃金バランスを確認することです。

「どの程度の売上増が必要か」「価格改定でどこまで回収すべきか」「賃金体系をどのように見直すべきか」が見えにくい場合は、給与データ・月次試算表・資金繰り表をもとに、税理士などの専門家と具体的にシミュレーションすることをおすすめします。

参考資料

記事監修者

佐野 元洋

かなえ経営株式会社 代表取締役
焔(ほむら)綜合会計事務所 所長
税理士・ファイナンシャルプランナー(CFP)
奈良県中小企業家同友会所属 会内役職:副代表理事

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