事業承継税制と揺れる大手芸能事務所 | かなえ経営株式会社(税理士法人トレイス)

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事業承継税制と揺れる大手芸能事務所

事業承継税制と揺れる大手芸能事務所

筆者:税理士 佐野 元洋
"中小企業の経営参謀"

世間を騒がせた大手芸能事務所の問題でにわかに注目を集めた「事業承継税制」。

元社長が代表取締役の座をなかなか降りなかったのはこの事業承継税制による税制優遇を受けていたためだということです。

今回は、事業承継税制について見ていきます。

⑴制度創設の背景

この制度が創設された背景には、中小企業の事業承継に係る2025年問題(注1)があります。

2025年問題とは、2年後には中小企業の経営者約245万人が70歳を超えるにもかかわらず、その半数の約126万人が後継者がいないもしくは未定であるというのです。このままいくと廃業が加速し、約1/3の企業が消滅してしまうという社会問題です。

事業承継が進まない一つの要因として考えられているのが、中小企業の非上場株式の承継問題です。優良企業ほど株式の評価が高く、承継するには多額の相続税または贈与税を負担することになります。

この税負担を軽減するために創設されたのが、この事業承継税制になります。

(注1) 事業承継の2025年問題

⑵制度概要

法人版事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けて

いる非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株

式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

この法人版事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」の2つの制度があり、特例措置については、事前の計画策定等や適用期限が設けられていますが、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や納税猶予割合の

引上げ(80%から100%)がされているなどの違いがあります。

⑶一般措置

1 事前の計画策定      不要

2 適用期限         なし

3 対象株数         総株式数の最大3分の2まで

4 納税猶予割合        贈与:100% 相続:80%

5 承継パターン        複数の株主から1人の後継者

6 雇用確保要件        承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要

7 事業の継続が困難な

事由が生じた場合の免除   なし

8 相続時精算課税の適用  60歳以上の者から18歳以上の推定相続人・孫への贈与

⑷ 特例措置

1 事前の計画策定      特例承継計画の提出(令和6年3月31日まで)

2 適用期限         令和9年12月31日までの贈与・相続等

3 対象株数         全株式

4 納税猶予割合       100%

5 承継パターン       複数の株主から最大3人の後継者

6 雇用確保要件       弾力化(下回った理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出し、確認を受けることとされています。)

⑦事業の継続が困難な

事由が生じた場合の免除  あり

8 相続時精算課税の適用   60歳以上の者から18歳以上の者への贈与

⑸共通の要件

●後継者側の主な要件

1 相続・贈与の時において、会社の代表権を有していること

2相続・贈与の日において、18歳以上であること

3 相続・贈与の日まで引き続き3年以上を会社の役員であること

4 相続・贈与の時において、後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することと

●先代経営者等の主な要件

①会社の代表権を有していたこと

②贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の

50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと

③贈与の時において、会社の代表権を有していないこと

⑹納税猶予額を納付する必要がある場合

1 納税猶予を受けた非上場株式の一部を譲渡した場合

2  後継者が代表権を有しなくなった場合

3 会社が資産管理会社に該当した場合

4 一定の基準日における雇用の平均が、「相続時の雇用の8割」を下回った場合

⑺ まとめ

先述の大手芸能事務所の元社長もこの制度を利用して、相続税の納税が猶予されていました。

⑹②の代表権を有しなくなった場合に該当するため、代表を降りるのを拒んでいたのだと思われます。

このように要件に当てはまれば、非常に大盤振る舞いな制度ですが、一歩間違うと今回のような事態に陥ります。

先々の事を後継者としっかりと語り合いましょう!

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