社員を役員に登用したい!「使用人兼務役員」の違いとメリット・デメリットを解説

「長年貢献してくれた優秀な社員に、そろそろ役員(取締役)になってほしい」
経営者としてそう考えたとき、ふと不安になることはないでしょうか。「役員になると責任が重くなるから嫌がられるのではないか」「待遇が変わることで、かえって本人の不利益にならないか」といった懸念です。
いきなり完全な「役員」にするのではなく、まずは「使用人兼務役員」として登用する方法があります。これは、従業員としての安心感を残しつつ、経営にも参画してもらうための有効なステップです。
この記事では、これから役員になってもらいたい従業員に対して、どのように説明すれば納得してもらえるか、その判断材料となる「使用人兼務役員」の仕組みとメリット・デメリットを分かりやすく解説します。
そもそも「使用人兼務役員」とは?
会社法や税法において、役員と従業員(使用人)は契約の性質が全く異なります。
- 役員(取締役など):会社からの「委任」契約。経営のプロとして結果に責任を持つ。
- 従業員(使用人):会社との「雇用」契約。指揮命令下で労働力を提供する。
「使用人兼務役員」とは、その名の通り「役員としての地位」と「使用人(従業員)としての職務」を兼ねている人のことです。
具体的には、「取締役 営業部長」や「取締役 総務課長」のように、役員としての肩書きを持ちながら、引き続き部長や課長として現場の指揮も執るケースがこれに当たります。
従業員(候補者)にとってのメリット
従業員に役員就任を打診する際、以下のポイントを伝えると、相手の不安を和らげ、前向きに検討してもらいやすくなります。
1. 「従業員としての身分」が残る安心感
いきなり「役員」になると、雇用契約が終了するため、労働法による保護(解雇規制など)がなくなります。しかし、使用人兼務役員であれば、雇用契約の部分が残ります。
万が一、役員を解任されたとしても、従業員としての地位まで自動的に失うわけではありません(契約内容によりますが、一般的に身分保障の観点で安心感があります)。
2. 雇用保険(失業保険)を継続できる可能性がある
通常、役員になると雇用保険の資格を喪失します。つまり、退職しても失業手当が出ません。
しかし、使用人兼務役員の場合、「労働者としての性質が強い」とハローワークに認められれば、雇用保険の被保険者資格を継続できるケースがあります。これは、将来への不安を感じる従業員にとって大きなメリットです。
3. 経営に参画し、キャリアアップできる
現場の意見を経営会議で直接発言できる権限を持つことは、仕事のやりがいや視座を大きく高めます。将来的に経営幹部を目指すための「試用期間」としても機能します。
従業員(候補者)にとってのデメリット・注意点
一方で、誠実にデメリットも伝えておくことが、後のトラブル防止につながります。
1. 賞与(ボーナス)の柔軟性がなくなる
従業員のときは、会社の業績が良ければ決算賞与が出たり、個人の頑張りでボーナスが増えたりしました。
しかし、役員(兼務役員含む)の報酬は、税務上のルール(定期同額給与など)により、「毎月同じ金額」であることが厳格に求められます。賞与を出すこと自体は可能ですが、「事前確定届出給与」として税務署へ事前の届出が必要になり、業績が良いからといって急に増額することはできません。
※ただし、使用人兼務役員の場合、「使用人分としての賞与」は、他の従業員と同じ時期に支給すれば経費(損金)にできるルールがあります。この点をうまく設計すれば、デメリットを最小限に抑えられます。
2. 残業代が出なくなる可能性が高い
役員は労働基準法の対象外です。使用人兼務役員であっても、取締役という立場上、「管理監督者」として扱われることが一般的であるため、残業代の支給対象外となるケースがほとんどです。
役員報酬を設定する際は、これまでの残業代込みの年収を下回らないよう配慮する必要があります。
会社側の注意点:誰でもなれるわけではない
「とりあえず全員、兼務役員にしよう」ということはできません。税法上、以下のポジションにある人は使用人兼務役員になれない(=完全な役員として扱われる)と定められています。
- 代表取締役(社長)
- 副社長、専務、常務などの役付取締役
- 監査役
- 同族会社で、一定以上の株式を持っている特定の役員
つまり、これから登用する人に「専務」や「常務」の肩書きを与えたい場合は、使用人兼務役員にはなれません。「平取締役(ヒラ取)」として、かつ「部長」などの使用人職務を持たせる必要があります。
まとめ:まずは「取締役〇〇部長」から始めよう
従業員を役員に引き上げることは、会社にとっても組織の若返りや活性化につながる重要な決断です。候補者に対しては、以下のように伝えてみてはいかがでしょうか。
「経営にも関わってほしいが、いきなり雇用契約をなくすのは不安だと思う。まずは『使用人兼務役員』として、従業員の籍を残したまま取締役になってくれないか」
このように段階を踏むことで、従業員も納得感を持って新しい役割に挑戦できるはずです。